奇特な世界へようこそ~僕の思考回路~

僕ことURAKIが綴る目眩く思考・嗜好・そして志向の世界へようこそ。貴方にニッチな体験と出会いをお届けする そんな雑記をご賞味下さいm(_ _)m

信じる者は救われる~科学信仰の時代に想うこと~

「無神論」という言葉を初めて知ったのは、SFC史上最も傑作と云われることも多いクエスト*1のSLG「タクティクスオウガ」の一場面でのこと

 

 「オウガバトルサーガ」の第七章という位置づけの本作は、政治、思想要素が魅力の一つではありますが、その世界観は前作*2同様 「鋼の掟と闇を司る魔」が支配するというもの つまり「魔法」の存在する世界

 そんな中、ゲーム後半、任意で訪れるイベントにて「それ」は姿を現します。

ボルダー砂漠で主人公デニムたちを待っていたのは銃を携えたガンナー(つまり銃使い)のフィリニオンでした。

 このゲームでは、敵部隊のリーダー格には何かと「肩書き」が付けられているのですが、*3このフィリニオンに付けられていた肩書きこそが「無神論者」だったのです。

 なるほど、文明の利器である「銃」を扱うということは、従来の「神や自然に対する信仰」を要する「魔法」の力とは相反するわけで、つまりそうした「信仰」を捨ててこそ得られる「力」を手に入れたことを表現(揶揄)した言葉としてこれほど適切な例えはないんじゃないかと 感心したものです。

 

 我々が生きるこの現代社会が「科学文明」の恩恵を受けているのはいうまでもないことですが、そんな我々もその意味では「無神論」といえるのかもしれません。

 誤解なきように、世界には様々な宗教が存在しますし、熱心に信仰されている方も多い、基、グローバルな視点で視れば何かしら宗教をきちんと信仰しているのが常識なのは承知しています。

 その上で、敢えて言わせてもらうと、やはりそれでも現代は「科学信仰」の時代だとも言えるとそう思うのです。

 

 ここから先は便宜上、科学信仰の社会という前提でお話させて頂きます。ご理解ください。

 

 フィリニオンが「銃を扱うという能力」と引き換えに「魔法という能力」を失ったように、我々も科学を盲信するあまり、失ったものがあるのでしょう

 

 ここで一旦 閑話休題

 以前の記事で、ショートショートの天才*4 として作家の星新一さんについてお話させてもらいました。

 ショートショートと呼ばれる非常に尺の短い話の中に様々なメッセージを込めて表現する天才だったわけですが、そんな氏の著書に「進化した猿たち」*5というのがあります。

 これは、氏お得意の、ショートショートを集めた短編集ではなく、氏の趣味?のひとつだという「アメリカの1コマ漫画」を収集したコレクションから、その中で選りすぐりの作品をジャンルごとに紹介していくという何とも面白い作りになっている本です。

  例えば「番号の男たち」と題された章では、文字通り囚人たちの日常のやりとりを巧く一コマで描いた作品について、氏なりの感想解釈を「活字」で紹介していくのです。実際、その米漫画家たちによって描かれた「画」は目前になくとも、氏の巧みな文章によりその光景が脳裏に浮かび思わずニヤニヤさせられます。

こんな楽しみ方ができるのも、新鮮でなんだか脳が刺激されるのを感じるんですよね。

 

「安らかな眠り」と題された章。 ここでいう「安らかな眠り」とは文字通り「死」のことであり主に葬儀や墓地でのエピソードをテーマにした1コマについているわけですが、それについて言及するにあたり、氏がある日本の狂歌を紹介しています。

「食えばへる眠ればさむる世の中にちと珍しく死ぬもなぐさみ」

 詠み人知らずのこの歌、つまり 食っては寝てまた起きて・・・を延々と繰り返すマンネリズムを感じる生活の中で「死ぬ」という珍しい体験も良いものだなぁ と まあそんな感じの解釈になるのでしょうが じつはこれ絶世の句らしく 氏もいっているように死に際にしてこんなことがいえるのはよほど大した人物だったのかもしれません。

 

 しかし、ここで星新一フリークになっていた僕は思ったのです。

この狂歌を詠んだ人物の心情については、氏のショートショートの一遍である「殉教」に描かれていたメッセージが当てはまるのではないかと・・・

 「殉教」

それは、死んだ妻に会うために、死者(死後の世界)と交信ができるという装置を発明した男が その効果を証明するために自らも死後の世界に赴き、こちら(現世)の人間を引き込んでいくという何とも凄まじい話です。*6

男がその劇中で、中々装置の効果を信じてくれない民衆に対して、それを証明するため自ら命を絶ち「死後の世界」から民衆に語り掛けたその内容というのが

 

 昔の人々は宗教(信仰)によって死後の世界を信じていた。しかし、科学がそれを消し去った。

科学とは残酷なもので、寿命を幾分か引き延ばした代償として、我々から「死後への安心感」を奪ったのだと

しかし、今この装置の効果(つまり死後の世界が存在すること)が証明されたことで、

 死後への恐怖は「克服」されたのだと だからいつまでも「現世」に拘らず、こちらに来なさい そうしたら死んだ縁の人たちにも会えるのだから・・・

 

 といったものなのです。(ざっくりですが・・)

 

 まさに、先述した狂歌の、その名も素性もいまとなっては知る由もない「昔の人」はただただ肝の据わった大した人間だったわけではなく、きっと「信仰心で満たされていた」のでしょう。 

 だからこそこの歌からは「死への恐怖」が微塵も感じられず、逆にコミカルに感じられるということなのだと

 そして、これこそ我々 現代人が失ったモノなんだなと改めて感じたのでした。

 

 今回は星新一氏の作品をもとに、「信仰」について考えてみました。

彼の作品はこうした生死感、精神論から社会風刺、道徳まで様々なジャンルを、網羅しています。

 烏滸がましいですが、僕が敢えて「雑記」に拘って記事を書いているのは、こうした彼の「なんでも書く」というスタイルに憧れているというのも一因だったりするのです。

 そんなリスペクトする星さんの作品 ぜひこの機に手にとっていただけたら嬉しいですね。 

 では、また次回は 何を書くことになるのやら 徒然なるままに・・・

 

*1:現在は存在しない。

*2:「伝説のオウガバトル」。シリーズ第1作にしてオウガバトルサーガ第五章

*3:屍術師ニバスに忠誠を誓うウィッチ「恍惚のモルバド」、流暢に喋っているのに何故か「吃音」のブレッセンとか、何を憂いているのか「憂愁レクセンテール」等中々、面白い肩書きがズラリ

*4:過去記事 ショートショートの天才を参照

 

www.livingdaylights.work

 

*5:

ショートショートではない氏の魅力を堪能ください。リニューアル復刻版

文庫本でどうぞ

進化した猿たち: The Best (新潮文庫)

進化した猿たち: The Best (新潮文庫)

 

 

*6:「殉教」収録はこちら

ようこそ地球さん (新潮文庫)

ようこそ地球さん (新潮文庫)

 

今回、記事では紹介しなかった結末を是非。

 他にも「処刑」など生死について考えさせられるショートショートも収録